まぐれで早稲田大学では政治経済学部にだけ合格した私は、卒業するために面白くて楽勝の講義ばかり履修した。
厳しい講義では、私の実力では単位が取得できない可能性があるからだ。
当時は講義の単位取得難易度や、面白さなどを評価した雑誌が早稲田や高田馬場周辺で売っており、それを参考にした。
一般教養科目は大教室で大勢の学生に対して行われる、いわゆるマスプロ授業と呼ばれる形式が多かった。
マイケル・サンデルがハーバード大学で行っているような講義の形式だ。
サンデルはリバタリアニズムに対するコミュニタリアニズムの論客として政治思想史に名を刻んだ人として学んだ。
つまり歴史上の人のような認識だったが、NHKの番組が評判になることにより急激に身近になった。
そんなに歳が行っているようには見えない。
リベラル・コミュニタリアン論争で名前が出ていたときは相当若かったのではないか。
楽勝科目で選んだ講義として、社会学があった。
桜井洋先生。
そもそも社会学など高校までは勉強しなかったので、どういう学問かもわからない。
しかも、桜井先生は、社会の秩序は自己組織化するのだ、という話で、ちょっとついていけなかった。
しかし大学の先生がそう言うのだから、そうなのだろうとしか思えない。
参考図書としてカウフマンの『自己組織化と進化の論理』があげられていたので読んだ。
ばっちり理解できたわけではないが、無作為に組んだプログラムでも時間が経過とともにルールが形成される、というような内容だったと思う。
信じ難い。
しかし、その本で使われる用語が「カオスの縁」など詩的好奇心をくすぐるものがあった。
ちなみに、大学の講義では参考図書が多く提示されるが、なるべく全部読んだ方がよいと思う。
なぜなら、その本はその時最も興味を持って読めるであろうからだ。
普段なら興味を持てず眠くなるような本でも、知識がフレッシュなうちに読むのが最もロスが少ない。
大学近辺の古本屋で安く入手できるであろうし、人生において難しい本を眠くならずに読み切るチャンスだ。
桜井先生の言っていることは、本当なのかと思いつつも、講義内容は面白かった。
印象に残っているのは、バス停に並んでいる列の向こう側に行きたいときは、列を遮って向こう側へ行ってはいけない、列の最後尾を迂回していかねばならない、並んでいる人はルールに則ってその場にいるからだ、列を遮るのはルール違反だと言っていた。
そんなものか、と思った。
今考えると桜井先生はカント主義者なのだろうか。
分子生物学が自己組織化に関係があり、今専門書を読んでいるとも言っていた。
図書館で探してみたが分厚くてさすがに読む気にならなかった。
というより、こりゃ読めないと思った。
他には、山梨に住んでいて土鍋でご飯を炊いている、とか興味深い内容だったが、講義の内容とどのように関係しているかは忘れた。
桜井先生は今本を執筆していることころと言ってた。
当時の講義を振り返るために、その本を手に入れたいと思いちょこちょこチェックしていたのだが、なかなか出版される気配がなく、いつしかチェックすることを忘れていた。
最近思い出してチェックしたところ2017年に出版されているようだ。
『社会秩序の起源』。7,150円。…高い。しかし読みたい。当時の講義を振り返る意味で。